【初等少年院送致】
3度目の逮捕。
それは慣れたもんだった。
手錠にも慣れていた。
手錠をされていることに違和感を感じなくなっていた。
俺はまた留置場生活。
取り調べは数日で終わった。
留置場生活は基本的に20日間だ。
残りの日数をどう過ごすか。
そんなことばかりを考える日々。
1日3冊まで部屋に持ち込める本。
基本的に小説ばかりを読んでいた。
推理小説ばかり。
これは喫煙者逮捕あるあるかもしれないが、
小説の中でもタバコを吸っている場面で、めちゃくちゃタバコが吸いたくなるもんだ。
留置場の運動の時間は、成人がタバコを一本吸えた。
その煙の臭いにも敏感に反応してしまう。
「看守さん、タバコくれよ」
何度も言ったが、当然くれない。
ずーっとタバコが吸いたかった。
そんなくだらないことばかり考える日々。
俺はこの先少年院に行くことになるのか。
どんなところなんだろう。
行きたくねぇな。
そんな気持ちが募るようになってきた。
無駄に長く感じる留置場生活20日間、3度目を終え、
再び鑑別所に入ることとなる。
俺は慣れたように入所した。
ここまでくると、鑑別所の方が居心地が良くなってくる。
風呂は週に2回、というところは変わらないが、圧倒的に生活感があるのは鑑別所だ。
毛布しかない留置場とは比べものにならない。
なんか、よくわからないけど鑑別所に来れたことが嬉しかった。
新鮮だった。
留置場を抜け出せたという達成感からなのか。
また俺の鑑別所生活が始まる。
鑑別所では、調査官と呼ばれるやつがいる。
そいつは俺ら少年の生活を調査し、裁判官に報告するんだ。
調査、と呼ばれる面接が何回か行われるが、俺はもはや少年院送致を覚悟していた。
それでもやはり、自分をよく見せようと必死だった。
もしかしたら、覚悟は決まっていなかったのかもしれない。
ある日、鑑別所に刑事が来た。
取り調べという名目で呼ばれた。
内容は、イケメン高身長野郎が罪を認めたことによって調書の書き直しをするというものだったと記憶している。
イケメン高身長野郎は、後から聞くと、短期の少年院をあと2ヶ月とかで出れるくらいまで来ていたみたいだったが、少年院で再逮捕されることになったらしい。
だいぶ辛いだろうが、しょうがないことだった。
結局調書の書き直しをし、その日の取り調べは終わった。
そんなこんなで、俺は審判の日を迎えることになる。
審判の日の前日、部屋の荷物をまとめる作業があった。
鑑別所で購入した物品。
自分の下着、タオル、シャンプー、歯ブラシ、歯磨き粉、差し入れてもらった本線、手紙などだ。
それら全てを、"持って帰る"ものとして、かごにつめていく。
俺は確かに明日審判を受ける。
だけど、なぜか鑑別所を出るために物を片付けているその動作が、家に帰れる物だと錯覚させられる。
俺はウキウキしながら、自分の荷物をつめていく。
部屋がすっきりする。
そして、審判前夜、入社してきた入所室にいく。
物品の整理だ。
手紙が何通か、本は何冊か、歯磨き粉はあるか、全てノートに書かれ、数をチェックされる。
そんなことをされていると、ますます出れる気分になる。
その日の夜はあまり眠れなかった。
なんでだろう。
審判に対する緊張なのか。
なんて裁判官に話そうか、どう答えようか、そんなことばかりを考えていたからなのか。
裁判官に聞かれる質問は、あらかじめ教官とかの話を聞き、わかっていた。
「鑑別所でなにを考えて生活していましたか。」
「この先、どうすれば同じことを繰り返さないのか」
「外に出たら、どうしていくのか」
そんなことの返答をひたすら考えていた。
気付けば審判当日になっていた。
俺は緊張していた。
上手く話せるのか、外に出られるチャンスはないか。
色んなことを考えながら、教官に呼ばれた。
入所室にいく。
また、同じように手錠をかけられ、
その日審判の少年何人かが、乗り合いで護送車に乗せられる。
俺は家庭裁判所にいく最中、色んなことを考えていた。
ひたすら質疑応答を繰り返していたかもしれない。
家庭裁判所についてから、審判への流れは詳しくは覚えていない。
鑑別所から出る際、自分の荷物を紙袋に入れられて渡される。
自分の荷物だけを持っていると"外に出られる"という期待感を持たせられる。
家庭裁判所での審判には、親、弁護士が付き添うことになっていた。
審判のとき。
手錠をしていたか、していなかったかはだいぶ前のことだから覚えていないが、審判の会場には裁判官、調査官、弁護士、そして親がいた。
裁判官から色々質問をされる。
1番初めは住所とか生年月日とか名前を言わされ、その後に罪名を言われた気がする。
色々と質問をされたが、想定内の質問ばかりで、応用をきかせ、対応できた。
俺は、まじめに見せるのが得意だった。
話の受け答えは昔から上手かったし、年上の人に気に入られるような立ち振る舞いが得意だったから、なかなか上手いこと答えられた。と思った。
一度審議をしますのでご退出を、と言われ、親、俺、弁護士は法廷の外に出ることになった。
そこまで待たされなかった。
誰かから聞いたか、読んだ話だが、審議になることはあまりなく、審議になった場合、『試験観察』か
『保護観察』になることが多いと知っていた。
俺は密かに、期待していた。
これで出られるかもしれない。
そんな甘い期待をしていた。
リュック眼鏡ヤンキーも少年院、イケメン高身長野郎も少年院。
それなのに俺だけが出られるわけがない。
そんなことはわかっていたのに、期待していた。
再び部屋に呼ばれる。
「君が真面目にやっていく気持ちがあるのはよくわかる。しかしやっていることが重大すぎる。」
そう言われた。
判決をくだされた。
「君を初等少年院送致とする。」
隣で親が泣いた。
すすり泣きが聞こえてきた。
わかっていたはずなのに、目の前が真っ暗になる感覚がする。
涙がでそうだ。
親になんて顔をすればいいかもわからなかった。
「ごめん、頑張ってくるわ」
そんなことしか言えなかった。
俺は少年院へ行くことが決定した。
つづく