【鑑別所でまた逮捕】
鑑別所での生活を卒なくこなすようになっていた。
朝の身辺整理で指摘を受けることもなくなり、
ルールを守るいい子として生活を送っていた。
次々に入ってくる少年が多い為、部屋の入れ替わりが激しかった。
夜にいつも教官が放送で語る内省の時間があるんだが、その時に教官が話していた。
昔はもっと人が多く、集団部屋(鑑別所には個室と集団部屋がある。)に人が詰め込まれるくらいにいたらしいが、この当時も相当多かったみたいだ。
この当時の部屋も結構多かったみたいだ。
そんなある日、俺は集団部屋に部屋替えされることとなった。
初の集団部屋にワクワクしたが、実際に生活が始まってみると、つまらないものだった。
見栄を張った奴らの集まりが3〜5人で共同生活するんだ。
たまったもんじゃなかった。
狭い。
臭い。
トイレはひとつ。
喋れない。
目も合わせない。
黙々とすぐ隣に人がいるのに、自分のことをこなす。
なかなかなストレスだった。
ただ、共同部屋というのは、生活をちゃんとできていると認められたやつがいける部屋なんだ。
それが唯一嬉しかった。
俺は少年院を逃れ、鑑別所から審判を受け、そのまま出ることが目標だったから。
しばらく集団部屋も慣れ、少しずつひとが減っていく。
審判が近づくと個室に戻されるんだ。
そのため、集団部屋にも人が少なくなってくる。
ストレスも少しずつ減っていった。
ある日、親が面会に来てくれた。
どんな顔をすればいいのか、眉毛も髪の毛もなにもかも剃れない、切れない状態で会うのは、正直恥ずかしかった。
面会室に行くと、心配した顔の親が座っていた。
俺はすごく申し訳ない気持ちが湧き上がり、涙が溢れそうになる。
俺が悪いことをしたことを責めるより、今の生活を心配しているところが見えて、俺は涙を堪え切れなくなった。
その時は心から後悔し、反省していたと思う。
30分もない、短い時間のためにわざわざ会いに来てくれた親に感謝と申し訳なさがあり、
俺は真面目にやると誓った。
親とも約束していたんだ。
もう悲しませたくなかった。
ただ、俺は前にも言ったように、刑事に言ってないことがあったんだ。
その後ろめたさは、
もう事件のことを話していない。ということすら忘れていたから、全く無かったんだ。
俺は普通に審判を迎え、出所するだけの気持ちでいた。
面会はすぐに終わった。
とても短く感じた30分だった。
家に帰りたくなった。真面目にやっていきたかった。
俺の決意は真面目にやること。しかなかった。
鑑別所での生活も長くなり、審判の日が近づいてきた。
俺は個室に移された。
それまでの期間、警察の取り調べは続いていた。
残りの余罪はないか。
他にやっていることはないか。
毎日毎日言われたし、聞かれた。
俺はずっと黙っていた。
言わない方がいいと思っていたからだ。
けど、俺は面会に来てくれた親に会い、真面目にやらないといけないという気持ちが芽生えていた。
審判が近くなり、個室になってからも
取り調べにきていた。
警察に諭されたのかもしれないし、
親に対する申し訳なさだったのかもしれないし、
ずっと黙っていたことが苦痛だったのかもしれないが、俺は警察にとうとう話したんだ。
今まで隠していた、重犯罪を。
内容までは言えないが、俺は告白した。
全てを話した。
俺は楽になりたかったのかもしれない。
少年院にはいきたくなかったが、真面目にやりたかったのかもしれない。
話した後、なんだかスッキリした気持ちになった。
刑事の前でも泣きそうになったが、なんとかこらえた。
それから数日経ち、朝教官に呼ばれたんだ。
荷物をまとめろって。
なんのことだと思いながら用意をし、ここに入所したときにいった部屋に通された。
刑事がいた。
「お前を再逮捕する」
俺は鑑別所の中で、再び逮捕状を見せられた。
審判間近だった。
まさか、また逮捕されるなんて思ってもいなかった。
俺が話したことは、審判に影響を与えるだけだと中学生の俺はなんの知識もなく、思い込んでいたが
元々の逮捕容疑より悪質なことだったため、また逮捕しなければいけないとのことだった。
俺は手錠を再びかけられた。
腰縄もされた。
気付けば留置場にいた。
今日から俺は鑑別所の少年ではなく、留置場の中の容疑者に逆戻りした。
そのとき思ったんだ。
リュック眼鏡ヤンキーは、もう少年院にいってるのか?
俺より先に逮捕されていたけど、あいつはどうなっている?
そう、リュック眼鏡ヤンキーも共犯だった。
イケメン高身長野郎もだ。
イケメン高身長野郎、あいつは否認しているみたいだった。
あとから刑事に聞いたら、審判を受け、短期の少年院にいったと聞かされた。
次の日、逮捕されたら必ず行く、家庭裁判所に連れて行かれた。
またすげぇ時間待たされていた。
車の中だ。
両脇には警官。
俺は外を眺めていた。
そしたら、坊主になったリュック眼鏡ヤンキーが手錠をされながら、肩で風を切って刑事に連れられ歩いていた。
俺は衝撃だった。
そいつはもともとロン毛に近かった。
それがなんだ、眼鏡かけてリュックは背負っていないが坊主だ。
少年院ってところがどういうところか、俺はその時少しだけ分かった気がする。
坊主ってだけで、つんけんして見栄を張っているそいつの姿は変わっていなかったが。
少年院に一度入り、そこで再逮捕されたんだなってわかった。
なんか、寂しさも少し紛れたきがする。
裁判所での手続きもおわり、留置場に戻る。
今回の留置場は1人だった。
めちゃくちゃに暇だった。
事件のことも素直に話し、取り調べもちゃんと進んでいた。
イケメン高身長野郎が否認しているということ以外は。
なぜだか、取り調べが続く。
イケメン高身長野郎が言っていることと、俺らが言っていることが食い違うからだ。
調書というのは、事実関係をしっかり合わせて、全員が一致したことを言っていないと検事に出せない。
調書を検事が見て、色々と判断をするみたいだ。
刑事より検事は強い。
そこで下手な調書は出せないんだきっと。
俺は取り調べがすっきり終わらないまま20日を過ごした。
イケメン高身長野郎は、いつになったら本当のことを喋るのか。
俺らはそんなことを思いながら、日々過ごしていた。
少年院にいるから嫌なんだろうって言うのはよくわかっていた。
留置場20日目、俺はまた再逮捕された。
これで3度目の逮捕だった。
恐らく、取り調べがしっかり終わっていないから、わざと別件で逮捕状を取ったんだと思った。
また留置場生活が繰り返される。
リュック眼鏡ヤンキーは坊主で再逮捕で留置場。
俺はまた再逮捕で、留置場。
イケメン高身長野郎は、恐らく短期の少年院で出院するために生活している。
短期の少年院というのは半年で出院だ。
ま、自分のしたことだからと3度目の逮捕を受け入れていた。
もうこの生活にも慣れてしまっていた。
刑事とも元々外にいる時から、仲が良かったし、この留置場生活でもよく喋るようになっていた。
とはいえ、もう結構うんざりだった。
いつ終わるのかわからない留置場生活。
結構辛かった。
また留置場生活が繰り返される。
取り調べも地味に続く。
この先俺は確実に少年院に行くことになる。
その現実をまだ受け入れ切れてなかった。
つづく
次回、【2度目の鑑別所】